「僕の興味を惹くもの」
起きてまだ数時間だというのに、気づけばもうすっかりと陽は落ち、風は気持ち程度ひんやりとしている。
道の端に落ちているごみは湿り、落ち葉だったと思われる物体はすでに原形をとどめていない。
数か月前から作りかけの道路にはひどく水が溜まり、バイクが通るたびに泥水をまき散らしている。
そしてどこかスッキリした顔で、カッパを被ってバイクに乗っている人がいる。
そうしたいくつかの事柄が、少し前にこの時期特有のスコールがあったことを僕に知らせてくれるのだが、それに対しての僕が思う事は「特にない」。
それは帰納法的に、「昨日も一昨日もスコールが降ったという過去の事象から、今日も降るであろうという予測が立っていた」ので、「特別に驚く必要もない」という側面もあるが、きっともっと単純に「どうでもいい」という意味が占める割合の方が高いであろう。
つまり「えー、どのくらい降ったんだろぉー」と思うほど僕は過去に興味がないし、それと同時に「えー、もう降らないかなぁ?」と思うほど未来にも興味がないのだ。
それよりも僕の関心を惹くものは、いま、今、現在(いま)、目の前のテーブルで申し訳なさそうにしている、この「ネスカフェブラック」だ。今回はどうしてこのコーヒーが僕の心を惹きつけるのか、それについて時系列を追って話していこう。
話を進めていく前に、これは決してネスカフェブラックの紹介だとか、PRではないということを予めご理解いただきたい。
「コーヒー代」
まず、このネスカフェブラックについて話を進めていくには、ライブ配信で貰った「コーヒー代」について触れておかねばならない。
現在、Youtubeという動画共有サービスにはライブストリーミング機能、つまり配信者と視聴者がある程度の同時性を伴った動画配信方法がある。
そして、チャンネル登録者が1,000人を超えているチャンネルについては「スーパーチャット」という視聴者からの投げ銭機能が使用可能となっている。これについて言いたいことは山ほどあるが、今はその場でないと考え、口を噤むとしよう。
さて、かく言う僕らの運営するバリ島旅行のみかたチャンネルでは週に1回ライブ配信を行っており、先日もそのライブ配信をしていたのだが、とある視聴者さんから「コーヒー代に」ということで投げ銭を頂いたのだ。
「投げ銭で頂いたお金は、撮影にかかる経費(ガソリン代、飲食代、衣装代等)にしていく」というなんとも会社的な決まりがあるのだが、この日のものについては「コーヒー代」ということで僕個人で使っていいという許可をもらった。
そのコーヒー代を片手に、僕はいつもより少しだけハイテンションで近くのコンビニまで足を運んだのだ。そこで事件は起きていく。
ネスカフェブラックという思考起爆剤
ご存知の方も多いかとは思うが、インドネシア人は甘いものが大好きだ。「お茶」といえば緑茶でもシロップや砂糖が大量に入ったものが出てくるし、ナシゴレン(インドネシア風焼き飯)にでさえ砂糖を入れる人もいる。
そんな中で、コンビニにある飲み物もその例に漏れず、基本的には全て甘いのだ。
”コーヒー代としてもらったからコーヒー買わんとなぁー、でもコーヒー甘いんだよなぁ、きっと”
目の前で白い爆発を起こしたかのように眩しいコンビニの中で、そんな風に思いながら、ドリンクの棚に目を向ける。
”えっと、コーヒーは…ここら辺か”
”なんだ、あるじゃん、ブラックコーヒー。”
どうせ甘いのしかない、完全にそう思っていた僕の目に飛び込んで来たものが「ネスカフェのブラックコーヒー」だった。
僕は意気揚々とそれを手に取り、店員がめんどくさそうにしているレジに運ぶ。
「ふぁflじゃlhふぁお(インドネシア語)」
「え?なんて?(日本語)」
「ふぁflじゃlhふぁお(インドネシア語)」
ぼーっとしすぎて全く聞き取れなかったが、きっと金額を言ってるに違いない。なんとなくでお金を出す。
「てりまかしー、さんぱいflじゃlhふぁおー♪(インドネシア語)」
いつも通り無事購入することができた。海外生活なんてこんなもんだ。相手の口から出る音にある程度の注意を払っていれば、意味を理解できるが、常にそんな状態であるわけではない。なんとなくなのだ、なんとなく生きて、なんとなく世界は過ぎていくのだ。
”2年半の海外生活で培われたのは図太い神経だな”
そう確信して、コンビニに併設されたイスに腰を掛け、おもむろにタバコに火をつける。
”そういえばSHOPEEで注文したメガネ、まだ届かないな…”
SHOPEEとは僕が最近ハマっているインドネシアの通販アプリ。これがあれば毎度のように日本から調達してくるものが少なくて済むので、とても重宝している。そんな、何気ないことを思いながら、コーヒーにストローを挿し、口に運ぶ。
(ごくり)
………甘い。
………甘い。
………甘い。
とてつもなく甘いのだ。
”まだだ、まだ焦るには早い、きっと…”
心の中でそう呟きながらパッケージを確認する。
【Nescafe Black】
ブラックだ、しっかりとブラックと記載があるのに甘い。
次の瞬間、無意識のうちに僕の声帯が小さく震えた。
「……全然ブラックじゃないじゃん。」
怒りにも虚無感にも似た感情が僕の胸の内に湧き上がる。
そうだ、そうなのだ。この僕が手に持つブラックコーヒーは、ブラックコーヒーではないのだ。甘い。吐き出すほど甘い。微糖等というレベルではない。飲めない。要らない。
「……何がブラックなんだ。」
街の喧騒に掻き消されるほど小さな声でつぶやいた瞬間に、堰を切ったかのように思考が加速を始めた。
「え、何がブラックなの?パッケージの色が黒いよってだけ?いや無いだろ」
「まさか舌がイカれた?本当は甘くないの?これ?いや無いだろ」
「一番甘くないバージョンってことでブラックなの?いや無いだろ」
「ブラックという謎のシリーズ?ネスカフェにはパープルとかホワイトとかあるってこと?いや無いだろ」
「中身を入れ間違えた?いや無いだろ」
「なんなの、歯に砂糖の塊でも挟まってて…いや無いだろ」
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いくつもの問いが出てきては潰され、悪戯に時間が過ぎた。そして、その先に残ったものはただ一つだった。
Selamat malam.
一問一答楽しくみて居ます
バリ島在住のξ^.^ξマーメイド。&【kai】夫婦です
4年前バリ島に住み始めた頃ネスカフェブラックを一口飲んで吐き出しました
予想と大きくかけ離れて居たから・・・異常だと思ったんですね
トラウマで今でも缶コーヒー、紙パックコーヒー、ボトルコーヒーは飲めません
バリ島に缶コーヒー、紙パックコーヒー、ボトルコーヒーの甘くないブラックコーヒーが
売っているか調査お願いします
有ったら手軽にコンビニで買って飲めるので助かります。