そう、リベンジ企画は2Lコーラを飲むところから始まった。
6月の某日、いつものように7時に起きた僕は日課の筋トレとシャワーを済ませ、そらを眺めていた。
僕は坦々と準備を進めた。日本から賄賂を払って密輸入した揖保乃糸と麺つゆをそっとスーツケースから取り出し、コップ、箸、そして先日買っておいた2Lのコカ・コーラを手に取った。コカ・コーラといえば、「アメリカ人の飲む点滴」とされているあの黒い炭酸飲料。前回の太陽パスタでは1Lのポカリの容器でチャレンジし、まさかの長さが足りないという事態に陥った。1度した失敗は繰り返さない。今回は2Lの容器を探し、このコカ・コーラをゲットしてきた。準備が万端すぎて自分でも「そつないな」と思ってしまう。
え、これ飲むの?!!!!!!
そうです。飲むんです。この「太陽×〇○」シリーズはアパートの方角の関係から、11時くらいまでにすべてを終わらせないといけない。12時になると日が当たらないのである。「ええええ、これだけでお腹いっぱいになっちゃうよ。。。。」うだうだいう自分に心の中のリトルホリがささやくく。
「ビビッてやめるか、ビビりながら飲むかだろ。」
そうだ、そうやっていつも乗り越えてきたじゃないか。いける。俺ならいける。小さな自信のかけらを拾い集めてきた僕は、いつも根拠ない自信に満ち溢れていた。そして右手でそっと2Lコーラを持ち上げ、飲み始める。
飲んだ。余裕。ゲップが止まらず、もうお腹いっぱいで正直、素麺なんて入る隙間はない。正気の沙汰ではない。
前回同様、空虚なペットボトルにはさみを入れる。ちょうどこのラインが素麺の長さのようだ。
はい、切った。ながさピッタリ。2回目となると人は要領がよくなる。
前回のパスタの時は、電気ぬるま湯が出ていたこのウォーターサーバーも、いまじゃ水しか出なくなっている。
揖保乃糸とは、素麺界の中でも他の追随を許さない細さと、それを感じさせないのどごしの良さで、まさに日本の夏を支える国民的素麺である。なにやら600年前から存在し、日本の暑い夏に苦しむ人々の胃を満たしているようで、まさに今回の日本代表としてうってつけの存在である。まぁ、ただ実家の近くのドラッグストアにおいてあったから買っただけ。
袋を開けてみると、まずその恐るべき細さときめ細やかさに僕は腰を抜かした。この揖保乃糸がバレリーナであるならば、前回のパスタはまるでプロレスラーだ。
そんな素麺を水に投入する。今回はしっかりと頭までおさまった。
そして、ここからが戦いの始まりである。
日本代表 揖保乃糸 VS バリ島のアツい太陽
開始3分、もうすでに麺がほぐれてきている。
だが油断は禁物だ。前回のパスタは全部沈んだと安心して、取り出し、あのザマだった。僕はひたすら待った。
暇。ひま。ヒマ。完全に麺が沈んでからは一向に動きがないため、タイミングが全くわからない。
何か被写体がないかと探した結果、トラがいたのでこれに決定。いいねー。
太陽×素麺×トラ
「(パシャパシャ)このトラ、もうちょいまっすぐならんもんか………」
んー…………もうちょいこっちなんだよな。あと少しこっち。
あ、落ちた。
不測の事態に、戸惑う脳内。しかし、こういう時こそ冷静にならなければ。まずは現状を把握、この状態のままふちトラを救出することは不可能のようだ。
しかし、水はまだ水のままである。2Lの容器を使ったせいで、量が多くなり、温まるのに時間がかかっている。だが、ふちトラは水中でもがき苦しんでいる。
しかたがない、水を抜くしかなさそうだ。すべてを悟った僕は、トラと素麺が入ったペットボトルを拾い上げ、台所へと持って行く。
次に素麺を洗う。水をいれ、回して、水を抜く。この作業を意気揚々と5回程繰り返し、外に持って行き、確認する・・・・・・・
あれ・・・・
素麺ってこんなだったっけ?!およそ1年ぶりにみる素麺。僕の記憶にある素麺はもう少しほぐれた物であった。
なぜこの素麺はこんなにまとまりがあるのか………
「まとまりがあるからまとまっているのだ」などとトートロジーを並べてもそれはまさに思考停止であり、知性の敗北を自ら宣言しているに過ぎない。素麺の素麺たる所以、素麺とはなにか、僕がこれを素麺と認識する前のモノ自体、一瞬のうちに様々な思考が頭をめぐる。
この世界はそれ自体としては人間の理性を超えている、- この世界について言えるのはこれだけだ。 『シーシュポスの神話』 アルベール・カミュ より引用
僕の奥底から湧き出る明晰性への死に物狂いな願望、統一性への欲求と、それでは決して割り切れないこの世界そのものが緊張感を保ちつつ対峙しているという状況、これこそが不条理である。
これは素麺である。あ、あれだ。水に浸して、氷いれたら、理性との統一が図られるに違いない。
お気に入りのジェンガラの器に移動し、氷、水を投入。(→ジェンガラについてはこちらの記事を参照。)おー、それっぽいじゃねえか。この姿まさに夏の風物詩。
できた!!!完璧だ。麺が一向にほぐれていないことに一抹の不安を抱えながら、しかし、そんなことはバリ島では気にはしていられない。僕が目の前にしているものは素麺であり、それ以上でも以下でもないのである。
あれ。これはやっぱり塊だな。なんかドロドロ。
ドロドロのかたまり、、、、、、素麺の塊から、なんとか一部を削り取り、つい今しがた作ったタレに浸す。
少しの不安と大きな期待を胸に、素麺だとそう僕が認識しているものを口に運ぶ。いただきます。
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ああ、今日も空は青いな。